ASANO PRIDE AS A CRAFTSMAN VOL.1 : HITOSHI NAKAMURAVol.1 中村 仁
技術の(株)浅野とよばれて、今年で58年目。
その半生を知る人がいる。社歴27年目をむかえるベテランマイスター中村 仁氏。
(株)浅野の技術を語れば右に出るものはいないといっても過言ではない。
静かで穏やかな語り口とは対照的な、中村氏の熱い職人魂をご紹介しよう。
職人「技」ここにあり
精度、それが職人の誇り
日本の強みは寸法公差*5の精度にある。高い寸法精度を日常的に追求するあまりにCAD*6担当者がとんだ勘違いをしたことがあった。「ミリ」と「インチ」*7の違いである。対潜哨戒機*8のレーダーカバーの金型製作を依頼されたときのこと。CADに沿って営業からのオーダーをヒアリングしながら、「ミリ単位」でモデルを製作した。当時はどのオーダーも「ミリ」が当たり前だったので、別段疑うこともなく作業をすすめたのである。
飛行機の世界は「インチ」が標準寸法と知ったのはモデルが完成した後だった。飛行機は海外製が主流のため、通常「インチ」サイズで図面が組まれるのである。時既に遅し。実際のカバーはテーブル2台分に亘り、「トン」の重さにもなる代物だった。おまけに「ミリ」を基準にして費用を見積もっていたのでとんだ大赤字になった。コミュニケーションの精度を高めることも、「技」の精度を高めることと同様に大事だと改めて気づかされた出来事だったと中村は語る。またカバー製作では、冷凍保存しなければならない素材を使うために、冷凍車が工場に横付けされたらすぐに素材を取り出して成形していた。
その他にも試練があった。手配モレで量産間近の部品金型を昼夜を問わず3日間で仕上げたこともあった。お取引先様の工期とコストを抑えるために、敢えて高価な設備を導入せずに、技術者の「経験」と「勘」で課題に取り組むこともある。その一例が「ハイドロフォーミング」*9と呼ばれるパイプの形状加工だ。水圧の加減一つでパイプの形が微妙に変化するので、職人技が試される。どんな状況であっても譲れなかったのが精度の高さ。これが(株)浅野のマイスターとしての誇りだ。
お取引先様が設計した図面に命を吹き込み、この世にまだ存在しない部品を送り出す職人としての矜持。中村の夢と挑戦はこれからも続く。