ASANO PRIDE AS A CRAFTSMAN VOL.4 : SHIGERU IMAIVol.4 今井 滋
2010年春、家族と初めて行った中国旅行。その秋、異動の内示を受ける。「今井 滋 殿、2011年、中国赴任を命ずる」想像もしなかった中国での仕事に不思議な縁を感じた。浅野初の中国事業立ち上げに、今井を含めた5人のサムライが、いざ出陣する。
魚に懸けた青春
モノづくりの喜びは変わらない
ランチュウ*1をご存知だろうか?ずんぐりとした見た目のユーモラスな金魚の一種である。清国(現在の中国)に由来をもつこの金魚は、またの名を「泳ぐ宝石」と呼ぶ。究極の金魚という呼び名も高く、値の張るものになると一匹数百万円もするという。今井が自宅の庭池で飼っているのも、ランチュウだ。養殖家から直接購入して来たと言うから、筋金入りの愛好家である。池も自家製だ。循環装置を設置し、非常に繊細なランチュウを飼育するのに、万全の体制を敷いている。
実は少し前に苦い経験をしている。大切に育てた鯉を、ポンプの故障で全て失ってしまったのだ。今回は同じ轍を踏まないように細心の注意を払って育てている。そんな折、中国行きの内示が出た。愛するランチュウの飼育を、妻に任せるべきか思案する今井の表情はとても穏やかだ。
幼少時から魚が好きだった。自宅の前には池があって、今と変わらず金魚を育てるのが好きだった。大学は迷うことなく近畿大学 農学部水産学科に進学する。世界初のクロマグロ完全養殖に成功したことで記憶に新しい名門である。70年代に今井が和歌山県串本町の大島実験場の実習で育てたクロマグロが産卵し、人工ふ化した稚魚がやがて成魚になり産卵するサイクルを繰り返して、今になってようやく花開いたのだから感慨深い。
卒業後は、知り合いの養殖場を立ち上げるために姫路に移った。鮎の養殖だ。2年間、奥深い山中で養殖場を一から作っていった。その経験がいまのモノづくりに活かされていると言う。「養殖場を作ることも、金型を作ることも、モノづくりはどれもすべて一緒。モノづくりの世界は変わらない。モノを作るのが好きなんです。好きであれば作るものは関係ないんです。」と今井氏は語る。