PROJECT.H VOL.1 : YASUHIKO SASAKIVol.1 佐々木 保彦
岩手の海沿いの町で育ち、F1を夢見た佐々木。
想いが叶い、レーシング活動に10年携わった。その後、(株)浅野で7年、溶接一筋でキャリアを積む。
「技術の見える化」プロジェクトのF1カーのスケールモデル製作ではフィニッシャーとして
レーシングカーと溶接の経験を結実させる。佐々木の夢を叶えるこだわりのモノづくりを紹介しよう。
部品製造の世界へ
勘違いを乗り越える
「ホンダがF1復帰を決めましたね。」という問いかけに、佐々木は昔を懐かしむように目を空に漂わせた。そんな佐々木の夢はホンダがエンジンを供給したマクラーレンの市販車に乗ることであった。10年間過ごした自動車レースの世界はとてもエキサイティングだったに違いない。一方、家庭を抱える佐々木は家族の将来のことも頭によぎったのだろう。長い人生を考えると縁の下の力持ちとして、自動車部品の製造というキャリアも頭に浮かんだ。妻の出身地、群馬は自動車産業が集積しており、新たなキャリアをスタートさせるには最適な場所でもあった。
群馬に引っ越し、職探しをスタートさせた佐々木は、1枚の求人票に目が釘付けになる。「F1部品の製造を手がけています」という会社の紹介文であった。ここなら経験を活かして、新たな人生をスタートできると思う佐々木にはまたある願いがあった。それは溶接のプロになりたいという希望だ。ここから佐々木の(株)浅野でのキャリアが始まった。
レーシングカーの世界はマシンの速さも然ることながら、見た目の美しさも大事な要素だ。足回りやタンクは綺麗に溶接されている。その美しさに魅せられた佐々木も当時はわずかな溶接経験しか持っていなかった。入社時にもそのことは伝えていた筈だが、いざ配属されると、溶接部門の上司には佐々木が経験者であると間違って情報伝達されていた。困惑する上司は佐々木に配属早々、曲げ加工の担当を薦めた。佐々木は図面を見たこともなかったが、10年間のレース経験で努力すればなんとかなると開き直り、懇願し必死に溶接の仕事に取り組んだ。
現在、(株)浅野で7年を経た佐々木は、お客様の細部に亘る要望に合わせて溶接作業を自在に使い分けるレベルにまで到達した。溶接のプロとして勘を働かせながら今日も一途に仕事に取り組む。