PROJECT.H VOL.1 : YASUHIKO SASAKIVol.1 佐々木 保彦
岩手の海沿いの町で育ち、F1を夢見た佐々木。
想いが叶い、レーシング活動に10年携わった。その後、(株)浅野で7年、溶接一筋でキャリアを積む。
「技術の見える化」プロジェクトのF1カーのスケールモデル製作ではフィニッシャーとして
レーシングカーと溶接の経験を結実させる。佐々木の夢を叶えるこだわりのモノづくりを紹介しよう。
再び自分の手でF1カーを
自利利他の心構え
世界に名を轟かせた日本人工業デザイナー「エクアン ケイジ*4」がその生涯を閉じたという報道が各国の報道局から配信された。佐々木のインタビュー直後のことだ。彼は「自利利他」の精神でデザインした。悟りを開くために修行し、他人の救済のために尽くすことという仏教用語だ。仕事に取り組む際に佐々木の念頭にあったのもこのキーワードかもしれない。
佐々木は溶接のプロとしてただ接着するのではなく、美意識をもって接着するという域にまで意識を高めて仕事に取り組んだ。すなわち溶接の技を磨き、その引き出しを増やすことに精進する「自利」の一方、見る人を感動させるレベルにまで職人芸として技を高める「利他」の精神だ。
「上を目指すものに完敗だと思わせるくらいぶっちぎりで勝負しろ」というのが前職での掟だった。そんな厳しいレースの世界で培われた想いも影響しているのだろう。出荷条件に見合う溶接で満足するのではなく、自動車レースの世界で育まれた完璧を追求する姿勢が佐々木を更なる高みのレベルに押し上げる。
技術の見える化プロジェクトでF1カーのスケールモデル製作メンバーに上司に誘われた佐々木。20代の頃を思い出しながら設計図面に目を通す。美意識を追い求める性が佐々木の脳裡にこう囁く。「少しでもこのスケールモデルをF1カーの実車に近づけたい・・・」。
そう思うと居ても立ってもいられずに、部品製造担当の稲葉を連れ立って、古巣のレーシング会社の整備工場に足を運んだ。溶接という枠にとどまらず完成度の高いスケールモデル製作に向けてメンバーに働きかけた甲斐もあって、フロントの足回りを変えることで、より実車に近いスケールモデルが生まれそうだ。